近代への夜明け

フランシスコ・タレガ(Francisco Tarrega)は、右手のタッチや左手の運指を工夫することにより、 ピアノ音楽以上に多彩で繊細な表現を可能にして、それまでの「酒場で歌う歌手の伴奏楽器」というイメージを払拭、 作品の精神性を損なうことなく再現し、サロンの音楽としてギターを多くの人々に新たに認識させた功労者といえるでしょう。



彼のレパートリーは、自作曲の他に、ピアノ、チェロ、室内楽、作曲家として例を上げれば、 バッハ、モーツァルト、ショパン、シューマン、メンデルスゾーン、アルベニスなど、 他楽器の音楽からギターの特性に合致している曲を選び抜いて編曲しており、 過去のギタリストの作品~ソル、ジュリアーニ、アグアド等の曲を演奏していない点が特徴となっています。

◆トーレスとの出会い
これは、彼が元々持っていた高い理想と、粘り強い研究心という彼自身の資質に加え、彼のギターへの新たなアプローチに対し、 胴体部分に厚みを持たせ、音量と同時に、より深みのある音を敏感に反応できる楽器を制作した、 名工アントニオ・トーレス(Antonio Torres)との出会いが大きな要因だったでしょう。

◆奏法の改善
タレガが現代に残した功績として筆頭にあげられるのは左手の運指の工夫にあります。 具体的に言えば、①弦の開放弦のミの音。②弦の5フレットのミの音。③弦の9フレットのミの音。 ④弦の14フレットのミの音。 これらの音はオクターブ関係にあるわけではなく、楽譜で表記すれば、全て同じ高さの同一音であるにも関わらず、 全く異なるニュアンスの音色を得ることができます。

この様なアプローチは、ギターが復弦だったルネッサンス時代は勿論、古典時代のギタリストにも全く見られず、 確かに左手の運指は、より複雑化するのですが、この新技術を用いることにより、微妙で多種多様な音色の変化を可能にしました。

◆他楽器からの編曲
この革命的な左手のアプローチこそが、モーツァルト、ショパン、シューマン、メンデルスゾーンなど、 音楽の歴史上に連なる巨匠達の名曲の数々を、原曲の精神性を損なうこと無くギターへの編曲を可能にしました。