アラストレ (arrastre〔西〕滑音 かつおん)
アラストレはスペイン語の《引きずる》《運搬する》という意味を持つ単語で、
声楽をはじめ、弦楽器や管楽器にも用いられる奏法の一つです。
ギターの場合、音の高さの異なる2音間に「斜線」を付けて表記し、同一の左指を使いながら、
この2音間を隙間なく滑らせるようにして音の高さを上下させる技法のことを指します。
◆グリッサンド(glissando〔伊〕)
グリッサンドはイタリア語の《滑らせる》という意味を持つ単語で、
アラストレとは表記が異なるのみで弾き方は同じになります。
作曲者や演奏家によっては「斜線」、
もしくは「波線状の斜線」の上にグリッサンドを意味する(Gliss.)記号を付けている楽譜もあります。
・タンゴアンスカイ(ローラン・ディアンス)
・ショーロ第1番(エイトール・ヴィラ=ロボス)
◆音高差からの判別
記譜による「スラー」と「アラストレ」の違いは、
2音間に表示される斜線の有無によって判断することになりますが、
スラー記号のみしか付いていない場合でも、
その2音間がスラーでは演奏不可能な音高差の場合、アラストレを用いることになります。
また、時には「斜線」のみが表記され、「スラー」記号が書き込まれていないケースもありますが、
この場合もアラストレを使用する~と考えて良いでしょう。
・マズルカ(フランシスコ・タレガ)
◆重音のアラストレ
中級者以上の曲になると、3度、6度、8度(=オクターブ)の関係にある重音をアラストレさせたり、
また、かなり特殊な例として、和音を押さえたままアラストレさせることもあります。
・練習曲第12番(エイトール・ヴィラ=ロボス)
◆アラストレからのハーモニクス
以下の楽譜の場合、各小節3拍目の「○印」はハーモニクス(=倍音)を指示しているため、
2拍目から3拍目にかけて適度なところまでアラストレさせた後、
3指、もしくは、4指を、②③弦の12フレットの真上部分に軽く触れておき、
弾弦後、素早く左指を弦から離すことになります。
・前奏曲第1番(エイトール・ヴィラ=ロボス)
◆ポルタメント(portamento)
左指を押弦したままの状態で、
弦の上を滑らせるようにしながら高さの異なる2音間を隙間なく上下させる点はアラストレと同じですが、
アラストレの最終地点において、2音目を右指で弾弦する点がポルタメントの特徴になっています。
弦上を滑っていく左指の移動速度が必要以上に速すぎてしまうと、
アラストレのみで2音目の音が響いてしまい、
その響きの余韻の中で改めて2音目を弾弦することになるので注意が必要です。
× 1音目→アラストレ(滑音)→2音目の余韻→2音目。
○ 1音目→アラストレ(滑音)→2音目。
・アデリータ(フランシスコ・タレガ)
以上の様に、クラシックギターにおけるポルタメントは、
弾弦する2音間をアラストレでつなぐ技術~と考えると理解しやすいかもしれません。