Chapter 3

装飾音について

◆前打音 (appoggiatura〔伊・英〕倚音 いおん)
旋律や和声を飾るもので、主要音(=原音)の手前に小音符を書いて示します。
前打音には「長前打音」「短前打音」「復前打音」の3種類があります。


1. 長前打音
斜線なしの小音符を用います。上行と下行の2種類があり、 いずれの場合も、左指の『スラー』の技術を用いて演奏します。


和音や低音が含まれる音形の場合は、 以下の楽譜のように「倚音+和音」「倚音+低音」の部分を同時に弾くことになります。


現在、広く出版されているクラシックギター用の楽譜の多くは、 この長前打音を用いた書法ではなく、 実際に演奏する音符に書き直した下段の記譜法が用いられています。

2. 短前打音
斜線付きの小音符を用います。上行と下行の2種類があり、 長前打音の際と同様に左指の『スラー』の技術を用いて演奏します。


短前打音の小音符は非常に短く演奏します。
長前打音は斜線なし、短前打音は斜線ありと覚えておくと良いでしょう。



3. 復前打音
主要音の手前に2個以上の小音符で書かれ、小音符は非常に速く演奏します。 単純に低い小音符から主要音、高い小音符から主要音へ向かう場合の他に、 音形が山型、谷型になるものもあります。


また、以下の楽譜のように、主要音の手前に3個以上の小音符を持つ復前打音もあります。



◆後打音 (after note〔英〕後倚音 いおん)
主要音を装飾するために使われる音で、中間打音とも呼ばれています。
トリル終了の際の最後の2音も、この後打音に該当します。

1. 通常音形の場合

2. トリルの場合

◆装飾記号
主要音と、その隣接音との間を急速に往復する装飾音を漣音(れんおん)といい、
・主要音から低くなる=下行漣音をモルデント(Mordent)と、
・主要音から高くなる=上行漣音をプラルトリラー(Pralltriller)と呼びます。

1. モルデント (Mordent〔独〕下行漣音)
主要音から2度下の音を弾き、すぐに主要音に戻る装飾音。
奏法:主要音を弾いた後、下行と上行のスラーを連結させて弾きます。



2. プラルトリラー (Pralltriller〔独〕上行漣音)
主要音から2度上の音を弾き、すぐに主要音に戻る装飾音。
奏法:主要音を弾いた後、上行と下行のスラーを連結させて弾きます。



3. トリル (Trill〔英〕顫音 せんおん)
主要音と2度上の音とを急速に往復します。 トリルの往復回数については、曲の速度や曲想によって異なるため、 演奏者の判断にゆだねられています。また、主要音の手前に小音符による指定がある場合は、 必ずその音から開始するようにします。


通常「tr」の記号を用いますが、長い音符にはトリル終了部分まで波状の線が付くこともあります。


全音符などの長い音をトリルで弾く際のギターの運指には、
a). 左指の上行と下行の『スラー』を連続させる方法と、

b). 異なる弦を『Pi指で交互弾弦』する方法が考えられます。

短い音符に付けられたトリルの場合は、3連符やプラルトリラーと同じ弾き方になります。